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 イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件で、名古屋市中村区のイスラム礼拝所「名古屋モスク」へ脅迫や嫌がらせの電話が相次いでいる。モスクの代表役員で、パキスタン人のクレシ・アブドルワハブさん(57)は「イスラムは平和の宗教であり、過激派組織とは無関係だと知ってほしい」と訴えている。

 クレシさんによると、嫌がらせ電話は、後藤健二さんの殺害場面とされる動画がインターネットに流れた今月1日の5、6件がピークで、この時は電話線を抜いた。「日本から出て行け」「家族構成は分かっている」といった内容で、愛知県一宮市の別のモスクには「殺す」との脅迫もあった。名古屋モスクには「日本人の敵だ」と中傷するメールも送られ、警察に届け出た。

 こうした嫌がらせは、名古屋モスクが1998年7月に完成してから初めてという。2001年9月の米同時多発テロや04年にイラクで香田証生さんが過激派組織に殺害された際も無かった。今回は「過激派が『イスラム国』の名称を使っているから、イスラム教徒に矛先が向かう」と考える。今月2日には、モスクに通うパキスタン人が営業先の日本人に「来るな」と追い払われたという。

 以前から偏見は強いと感じてきた。数年前に三男が小学高学年だった時、級友に「お前、爆弾巻いてるの?」と聞かれ、クラスが笑いに包まれたが、教諭は放置したという。三男はこれを機に一時、不登校になった。クレシさんは「一気に『ヘイト(憎悪)』が向かってくるかも」と恐れている。

 クレシさんら国内10カ所以上のモスクの代表者は先月末、「イスラム国」という名称がイスラムのイメージを不当に損なっているとして、同名称を使わないよう報道機関などに求める運動を始めた。「『イスラム国』の名称を使えば、暴力的な宗教だとの偏見が助長される」と指摘する。英語の略称「ISIS(イラク・シリアのイスラム国)」や「ISIL(イラク・レバントのイスラム国)」、アラビア語の略称「ダーイシュ」などの使用を呼びかけている。

 クレシさんは、性風俗の業態名として誤用されていた「トルコぶろ」を「ソープランド」に改名する運動が80年代に成功した例を引き合いに、「名前による負のイメージは影響が大きい」と話し、使用名称の変更に期待を寄せる。同モスクでは見学を受け付けており、希望者にはイスラムについて説明したいという。