イスラームについてあるいは日本に暮らすムスリムの生活について研究者や大人のムスリムの口から語られることはあっても、子どもたちの声が発信されることは稀です。そんな中、昨年11月にNHK名古屋放送局による「ほっとイブニング」が、名古屋モスクに集う中高生たちの思いを取り上げてくださったのは画期的なことでした(その時の詳細はこちら)。

DSC_0137そこからわずか1年足らずで、今度はNHK Eテレが「ウワサの保護者会」でムスリムの子どもたちを取り上げてくださいました。ご自身が子育てをされていてかつイスラームについても時間をかけて学ばれてきたディレクターさまが制作に関わられたこともあり、子どもたちの置かれている現状や思いを偏見なく母親の視点で共感し番組につなげてくださいました(放映のお知らせはこちら)。

以下は、番組内で流されたVTRから中高生たちの発言を文字に起こしたものです。(番組ではわずか4分間のVTRでしたが、実際には7人の中高生が2時間近くもの間、思いの丈を語ってくれました。ご興味のある方はコメント詳細をご参照ください。)

S__7626763ナレーション:悩みを語ってくれたのは、名古屋近郊に住む中高生。日本の学校に通う、ムスリムの子どもたちだ。まず、話題になったのは、「過激派組織ISと結びつけてからかわれる」ということだった。
高2男子:ニュースでイスラム国って言うせいで、ISがイスラムの組織だと思われちゃって。それと同じ人達と思われちゃうから。理解してくれない人はずっといじめみたいな感じで通りすがりに「テロリスト」って呼んだり。なんかそういう事ことをする人がいっぱい中にはいて。
中3男子:僕も体育の時間のために体操服に着替える時があって、その体操服に着替える時に、ある子が自分の脱いだ服を顔に巻いて、こうやって。それで違う友達が、「わーイスラムだ、イスラムだ」って、笑い合ってたんですよ。僕は見ているのがすごい辛くて。ISって言ったらまだいいけれど、イスラムって言っているから。イスラムと自分の信じている宗教のイスラムが結びついちゃうから。同じ単語を使って欲しくない。
高1女子:なんか、イスラムが広まってないうちに、ISが広まっちゃって。だからそっちの方が有名になっちゃったから。すごい嫌だ。本当に嫌だ。

ナレーション:偏見を助長しているのがSNS。ムスリムへの悪口がドンドン広がっているという。
高1女子:ツイッターとかだと、まったく知らない人間でもそれこそISの件が出た時にすごい悪口を書いてて。なんか、「イスラム教徒全員出て行け」とか、「もう日本来るな」とか。そういう事を書いている、たぶん若い人がいて。それを見たくないけれどリツイートされて回ってきたりとかあって、そのリツイートした人が自分の友達だったっていう時のショックの大きさとか、そういうのが辛いし。見たくない情報も見ちゃって苦しんじゃって。
高2男子:遮断のしようがないよね。

S__7626764ナレーション:そして、一番困っているのは、友達に自分がムスリムだと言い出しにくいこと。
高2男子:今の日本ってあんまりムスリムに慣れてないから、全然ムスリムの事知らない人もいるし。いくら仲が良くてもそれを言った事で、自分がムスリムという事を言った事で相手の態度ががらっと変わっちゃったり。だから、自分で急に、「俺ムスリムだから」みたいなことは言えないんですよ、やっぱり、怖くて。相手がもしこれで「お前無理」みたいになったら、すごいきついから。
高1女子:やっぱ拒絶されたらすごい残るから。頭にも記憶にも。
高2男子:イスラームっていうだけで、ものすごいでっかい壁があるような感じだから。イスラームでも、みんな同じ人間だし、普通にふれあってほしいです。

番組の後半では、大学生の発言もありました。

ナレーション:ぐれてしまった息子。それでも母はイスラムの教えどおりに接し続けたという。大学4年生になった次男に当時を振り返ってもらった。
大4男子:離れるっていうのとはまた違って、影ながらちょこちょこちょこちょこ、サポートはしてくれているんですよね。例えば座ってちょっと話してくれて「こういのだったらいいと思うよ」とか。常に見守る体制、サポートしてる体制だったんで、僕の中ではやっぱり、味方はいるんだなっていうのが、ちょっと落ち着き始めた頃に、ほんとに分かりましたね。気付いたっていうか。

ナレーション:息子に対し、母はいつも冷静に接した。怒らず愚痴もこぼさない。ただただ粘り強く意見を言い続けたという。これは、何ごとにも忍耐強くあれ、というイスラムの教えに則った方法だ。親の意見を聞き入れた次男だが、そこにもイスラムの教えが。
大4男子:例えば、母親を大切にしろっていうのは、もう本当にイスラーム的な考えで、父がいわゆる日本で言うマザコンのような態度を自分のお母さんに、当たり前に人前だろうがなんだろうがやっちゃうんですよ。だから僕たちの周りの友達が、いくら自分の両親の悪口を言っていたとしても、僕たちはやっぱりロールモデルが両親なんで、両親がいかに自分たちの両親を大切にしているかを見てると、結構父や母の背中を見て、自然と真似ていくんですかね。

ナレーション:両親がその親を大切にする姿を見て、自ずと親を敬う心が育った、というのだ。一方、中学高校の6年間、スカーフをかぶっている母に、学校には来るな、といい続けた三男は。
大1男子:もし無理やり来てたりしたら、もう「学校行きたくない」って多分なってたかもしれない。押し付けてこなかったことには本当に心から感謝してます。そのおかげで今の、今こうやって大学に入れて、ちゃんとした、自分になれたんではないかと思います。
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アナウンサー:息子さん、こんなこともおっしゃってました。「お父さんを大切にしなさい」といつもお母さんは言っていましたと。一方でお父さんは、じゃあ息子さんに何て言っていたかというと、「何よりもお母さんを大切にしなさい」っておっしゃってたんですって。

NHK Eテレ「ウワサの保護者会」ホームページには、番組の全体のまとめが掲載されています。バックナンバーから、2016年07月15日 (金)放映分の「ちゃんと知りたい!イスラム教徒ホゴシャーズ登場」をご覧ください。